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社会・文化

「染井吉野」物語

日本の春を彩る桜木の今昔

2011年3月号

 日本は桜の国。桜が開花する時期に「さくら祭り」を催さない土地をみつけるのは難しい。
 桜の季節は日本中が桜色に染まる風情を醸し出す。何とはなしに、浮足立って、心さわぎ、幸せな気分にもなる。しかも、何百年にも亘ってそうであった。
 世の中に絶えて桜のなかりせば
 春の心はのどけからまし
 と、在原業平が詠じたように、「花うかれ」は日本人を特徴づける心性の一つであろう。世界中を探しても、このように、一つの花見に興じる国民は、どこにも見当たらないらしい。
 ところで、万葉集や源氏物語の作中に表現された桜は野生のヤマザクラなどである。和歌と同様、平安、江戸期に描かれた桜も野生種であった。そうして、文芸や絵画、あるいは工芸作品が日本人の桜観を育ててきた。
 しかし、現在、眼に飛び込んでくる桜の大半がソメイヨシノという園芸品種である。今や、全国の八割以上がソメイヨシノで占められているという。
 古くから、歌人に詠まれ、狩野派や琳派の絵師が描いてきたヤマザクラは、楚々とした風情を持っている。茶室の壁に添えても、むしろ控え目・・・