三万人のための情報誌 選択出版

書店では手に入らない、月刊総合情報誌会員だけが読める月間総合情報誌

連載

不運の名選手たち13

増山誠倫(馬術競技選手)乗馬界の「闇」との苦闘 
中村計

2011年1月号

 その電話が入ったのは、忘れもしない、二〇〇三年十二月二十八日の晩だった。
〈二度目の陽性反応が出ました〉
 愛馬、トップギアファーストが七月に続き、十月の大会でもドーピング検査に引っかかったのだ。馬の場合、検査結果が出るまでに通常二カ月ほどかかる。
 乗馬界のトップライダー、増山誠倫は振り返る。増山は現在、三十二歳だ。くっきりとした二重まぶたと、並びのいい白い歯が、男性アイドルを彷彿とさせた。
「最初は自分のせいかと思った。うっかり餌の中に禁止薬物を入れてしまったのかな、と。でも結局原因はわからなかった。だから、二度目はパニックでしたね……」
 増山は直後、四月にイタリアで開催されるワールドカップの出場辞退を申し出ざるをえなかった。
 そして年が明け、しばらくすると、今度は三度目の陽性反応が出た。増山は、そのときはじめて気づいた。おそらく、誰かに嵌められたのだ、と。恐ろしかったが、それしか考えられなかった。
「出てきた成分が三回とも同じだった。どんなにバカでも同じミスをそんなに何度もやり・・・