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連載

皇室の風29

難航する昭和天皇実録
岩井克己

2011年1月号

 亡くなった天皇・皇族の事績を後世に伝える一代記である「実録」を作成するため、宮内庁は書陵部に編修課を置いている。昭和天皇実録は、二十一年がかりの資料収集・編纂の作業が終わり、二〇一一年春に完成する予定だった。
 ところが宮内庁は先頃、完成が三年遅れると発表した。
 一九九〇年(平成二年)度に十六カ年計画としてスタートしたが、九八年(平成十年)度になってギブアップして五年延長。さらに今回の延長によって二十四年がかりになる。民間企業だったら、納期が八年も遅れるとなれば損害賠償ものだろう。「宮内庁という役所の事業計画とスケジュール管理は一体どうなっているのか」と言われても仕方ないだろう。
 一八九一年(明治二十四年)に三条実美らの建言により孝明天皇の事績が宮内省で編修されてから、孝明、明治、大正の三天皇の実録が作られており、「孝明天皇紀」「明治天皇紀」が公刊され、大正天皇実録は順次閲覧に供されつつある。
 歴代最長寿で在位期間も最も長く、未曽有の激動の時代を生きた昭和天皇の八十七年の生涯の実録は「昭和の正史」とも言うべく、専門家のみならず国民全体が歴・・・