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中国は覇権を求めない

程 永華(駐日中国大使)

2011年1月号公開

 ---社会主義市場経済を標榜する中国はどこに向かっているのか。

  小康社会の建設というビジョンの実現のために、自国の建設に力を入れていく。小康とは中国語のニュアンスでは衣食足りて、少し豊かになったという意味であり、調和のとれたゆとりある社会を指す。そのために経済、文化の改革と同様に、政治改革も進めている。十月に開かれた中国共産党の五中全会での決議でも、積極的かつ適切に政治体制の改革を推進して、社会主義政治制度を自己管理し、絶えず発展させていくことを確認している。

 ---社会主義でいう調和とは一体何を指すのか。

  国内に抱える格差問題、例えば都市と農村の格差や都市内部の所得格差は、どれくらいが許容範囲であり合理的か、判断のうえ対応できれば、それはそれで調和のとれた社会といえるのではないか。

 ---中国がいうその「政治改革」の先には民主化はありえないのか。

  政治改革も一つのプロセスであり、そもそも絶対的な民主化、自由などというものはありえない。国というもの自体が政治的な概念だ。国の内情はそれぞれ違う。他国がどのような体制をとっていようとも、それを中国に導入するという議論にはならない。我々の言葉でいえば「特色のある社会主義の道」を歩んでおり、これからもその方向性は変わらない。それはほかならぬ中国国民の選択だ。その先に我々は調和のとれた社会を築いていく。

 ---「特色ある社会主義」とは具体的にどのような形を指すのか。

  実際に中国国内では共産党の指導のもと、八つの民主党派との多党協力制を敷いている。政治協商制度と呼ぶが、これは中国独自の社会主義制度における重要な構成要素である。西側の二党制や多党競争制とも一党制とも異なる。これこそ中国自らの国情を踏まえた政治制度である。全国的な政治組織としても、全国人民代表会議と同時に、政治協商会議のもとに、各党派が集まって議論している。現在の中国の閣僚には非共産党員が二人も登用されているのをご存じか。

 ---昨今の急激な軍備増強が周辺国の底知れぬ不安を掻き立てている。

  海軍力の増強についても指摘されるが、あくまで過去の脆弱な体制に比べて増強されているにすぎない。中国のニーズ、つまり一人当たり、ないし国土面積当たりの軍備、二万数千キロに及ぶ海岸線などの数字で他国と比べると、まだまだ中国の海軍力は十分とはいえない。むしろ弱点だとさえ思う。日本のイージス艦や米第七艦隊などと比べても、日本が中国を脅威に感じる必要などないではないか。中日両国は隣国であり、引っ越しできるわけもないのだから、経済的、政治的に「戦略的互恵関係」を維持するしかない。

 ---歴史上ない巨大国家となった今、世界とどう付き合うのか。

  かつての歴史の教訓として、両国は和すれば双方ともに利し、戦えば双方ともに傷つけるということがいえる。中国の政治方針は、あくまでも平和発展を目指し、国は大きくなっても覇権は求めないというのが、数千年来の中国の理念であり、現実的な政策だ。覇権を求めれば必ず滅びるという真理は、中国は苦い歴史的な経験をもって知っている。中国はあくまでも平和的に自国の発展に努める。日本や隣国との関係もこれを基本方針に据えていく。

〈インタビュアー 編集部〉

程 永華(駐日中国大使)
1954年9月中国吉林省生まれ。75年に日中国交正常化後、初の公式交換留学生として創価大に留学。77年から2000年まで3度、在日大使館勤務を経験。2000年本省アジア局副局長、08年駐韓国大使などを歴任。10年2月28日から現職。
 


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