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連載

本に遇う 連載131 

渡辺京二の覚悟
河谷 史夫

2010年11月号

 いくら金をかけているのか知らないが、テレビで暮れにかけてまた『坂の上の雲』をやるらしい。
 政治は貧困、外交は屈従、経済はデフレ、検察は冤罪作り、大相撲は外国人支配と、とかく滅入ることばかりの二十一世紀日本人を、せめて鼓舞せんとする日本放送協会の有難いおぼしめしであろう。
 その『坂の上の雲』あたりから、自分は司馬遼太郎を読まなくなったと、嘗て平然と言い切った人がいた。渡辺京二である。「それでも三巻くらいまでは我慢して読んだのかも知れない」と、「『翔ぶが如く』雑感」を書き出している。
 一九三〇年生まれ、ことし八十歳になる渡辺は、西南の地肥後に盤踞して衰えを知らず、『逝きし世の面影』に『黒船前夜』と、逸話から逸話を積み重ねるという方法で歴史を彷彿とさせる作品を世に送ってきた。いま本誌に『追想バテレンの世紀』を連載している。
「『翔ぶが如く』雑感」は、存命中に放たれた司馬批判としてまことに貴重なものと言わねばならない。初出は「カイエ」一九七九年十二月号だが、長らく「幻の文章」といわれた。わたしは司馬没後に出た『司馬遼太郎の世紀』で初めて接したが、・・・