不正だらけの「イオン金融事業」
利息「過剰請求」を闇に葬る非道
2016年5月号公開
「四月一日以降、社内は大混乱だ」
イオン関係者はこう語る。震源はイオングループの金融持ち株会社、イオンフィナンシャルサービス(FS)だ。二〇〇五年に子会社のイオンクレジットサービス(CS)で発生したシステム障害に端を発したトラブルが、十年以上も隠蔽されてきた事実を本誌四月号で報じた。しかしいまだに、イオンからこの件について利用者が納得する謝罪や発表は行われていない。それどころか、この期に及んで関係者の口封じを画策するなど同社の体質は看過できないほどに腐っている。
「過剰請求」だけではない社内不正
手元に一通の内容証明郵便の写しがある。日付は四月四日、差出人はイオンCSの水野雅夫代表取締役社長。水野氏は同社の生え抜き社長だ。これを受けとったのは前回の記事で本誌に内部告発をした平田正弘氏(仮名)。文書にはこう記されている。
「貴殿は、以下の通り、当社の就業規則一―五(一)に基づき、退職後も守秘義務を負うので、これを遵守し、同条で定める機密事項を第三者に開示又は漏えいしてはならない」
イオンCS側は三月三十一日付で平田氏を普通解雇している。この経緯については後述するが、同社は就業規則を盾に、自らの不祥事を外部に漏らすことを止めようとしているのだ。本誌四月号が読者の手元に届いたのは四月一日の金曜日。イオン側は週明けに大慌てで平田氏の口封じに動いたのである。同氏が語る。
「会社側は、私がシステム障害についてこれほど詳細に把握していることを認識していなかったのだろう」
四月十三日、イオンFSは突如として代表取締役の異動についてのリリースを出した。六月二十八日の株主総会に合わせて、山下昭典代表取締役社長が退任するという。これは明らかに、今回の告発記事を受けたものだが、あくまでも「山下氏の経歴に傷をつけぬようにする配慮」(関係者)だという。山下氏は一九七七年に旧ジャスコに入社し、二〇〇四年に同社執行役となった。その後、子会社となったダイエーの常務取締役を務めるなど、一貫してスーパー畑を歩み続けて出世してきた人物。一四年にイオングループの収益の柱となりつつあったイオンFSに送り込まれ、イオン銀行取締役や今回問題が発覚したイオンCSの取締役を兼任した。
イオン本体の重要人物であり、今回の問題で責任を問われる前に「避難」させたのだ。わずか二年で退任することや、イオン本体の執行役副社長を継続して務めることからもそれがわかる。
しかし、イオンには、グループ内で岡田元也代表執行役社長に次ぐ地位にある森美樹代表執行役副社長が残っている。森氏は七三年にやはり旧ジャスコに入社した後、八一年からイオンCSの前身である日本クレジットサービスに送り込まれ、一貫してグループのカード事業に携わってきた。森氏は、〇五年のシステム障害発生時、イオンCSの代表取締役社長を務めていた。つまり最高責任者として隠蔽工作を指示し、今日まで繫がる問題の元凶を作った人物である。
今回、前出の平田氏が告発をしたのは、森氏を筆頭とするイオンCSの体質が変わらないと感じたため。同氏が社内で問題視していたのは四月号で報じた大量過剰請求問題だけではない。
平田氏らイオンCS社内有志は昨年十月、会社上層部にある重大なコンプライアンス違反について調査するよう文書を提出していた。
イオンFSはイオン銀行を発行母体として各地のショッピングモール、センターで大量のクレジットカードを発行している。これをイオン各店舗などで利用してもらい収益を上げているが、その柱はショッピングのリボ払いや、キャッシングによる利息収入である。消費者金融と同様だが、そのキャッシング利用残高は四千億円と大手消費者金融にも匹敵する規模だ。
こうした貸付の中には、利用者の返済が滞った債権が含まれる。このうち長期回収不能債権、つまり不良債権の一部については外部の弁護士事務所に委託している。法的手段を絡ませながら滞納者に返済を求めるが、これ自体は金融会社として普通のことであり瑕疵はない。
不正を告発した側が容疑者扱い
しかし、平田氏らの調査によると、東京都千代田区にあるS法律事務所への偏った委託が確認されたという。実績のある他の法律事務所よりもS法律事務所への委託が突出して多く、しかも強引な債権回収による苦情などが申し立てられていたのだ。調べてみると、S法律事務所への債権回収の委託について社内の決済が通常通り行われていないことが明らかになった。回収困難なものであれ、融資した債権は金融会社にとって最も重要な資産である。杜撰な手続きで外部に出していいものなど一円たりともない。手元の資料にある一五年十一月までの支払い報酬から考えると、少なくとも一年間で二億三千万円分の債権がS弁護士事務所に委託されていた。
S弁護士事務所と社内特定部署との癒着も疑われたため、平田氏は前述した告発を行った。しかしその一カ月後に事態は急転する。昨年十一月六日、平田氏の職場にイオンCSコンプライアンス部の職員二人と、リスク管理グループの職員一人が突如として押しかけてきたのだ。そのときの現場防犯カメラの映像を見ると、社内一事業所への訪問というよりも乱入といったほうがぴったりの光景だった。職場にいた社員と押し問答をし、キャビネットや耐火金庫を無言で次々と開け始めた。まるで「家宅捜索」のようだ。不正を告発した側を容疑者のように扱い、別室で事情聴取まで行っている。平田氏らは当然このことについてイオンFS山下社長らに文書で抗議を申し入れたが、なしの礫だった。実はここでもまだ、平田氏はイオンの良識を信じていたという。
「イオン本体は大丈夫だろうと一縷の望みにかけた」
平田氏は昨年十二月に、グループのトップである岡田元也氏に内部統制の不備を訴える文書を送付したが、これも徒労に終わる。年明けの一月十八日、今度は警備員を伴った八人の職員が平田氏の職場を始業前に占拠。同氏に対して、自宅待機命令書を手渡したのだ。
「会社側は以前から私を追い出したがっていた」
平田氏はこう語る。理由として考えられるのは、前回告発したシステム障害問題や今回の債権委託問題など、会社の暗部を平田氏が知りすぎたから。現に、〇五年のシステム障害とそれに続く、不適切な利息計算処理の全貌を知っている人物は、ほとんど社内には残っていない。
イオンCSでは今年一月以降、なんとか平田氏を懲戒解雇に追い込もうと社内での調査を始めた。他の従業員から強引に平田氏の懲戒事由を聞き出そうとするもので、「査問のようだった」(関係者)という。しかし、平田氏についてそのような事実はひとつも出てこず、イオンCSは無理やりつくった懲戒事由を並べて、弁明するように伝えてきた。並べられた事実は「メールの大量送信による業務妨害」や「部下に対する業務外指示」といった瑣末なもの。三月二十四日に形式的に弁明の機会を設けた後に、三十一日付で平田氏への解雇を行った。名目は懲戒解雇ではなく普通解雇。
財務省OBを会長に据える姑息
その翌日に本誌記事が出たことで、イオン社内は冒頭触れたようにパニックに陥った。
同社はメディアへの抗議が苛烈であることで知られる。しかし、本稿執筆時点でイオン側からの抗議は編集部に届いていない。平田氏を黙らせようと前述した内容証明を送ったようだが、守秘義務よりも公益性が優ることはいまさら説明する必要はないだろう。冒頭のイオン関係者が現在の社内の状況を語る。
「イオン本体から説明を求められており、FS、CSは対応に苦慮している」
いまやグループの稼ぎ頭となったFSの不祥事ということもあり、社内には調査チームが編成された。発端である〇五年のシステム障害について、システム変更の経緯も含めて詳細について報告するようイオン本体と金融庁に求められているという。
しかし〇五年のシステム障害当時の五カ月間については、顧客データはどれが正しい数字なのかさえ検証できない状態にある。現在社内では、これをいかに誤魔化し、誰に責任を取らせるかについて算段が進んでいる。さらに隠蔽を重ねようというから罪深い。
四月二十二日、イオン銀行はこの件に関する顧客向けのお詫びをホームページ上に掲載した。しかし、「過剰請求」を「利息減額漏れ」と言い換え、〇五年のシステム障害については言及しないなど、いまだに姑息な対応に終始している。 イオンFSは退任する山下氏に代わり、イオン銀行代表取締役会長である鈴木正規氏を新設する会長ポストにつける。鈴木氏は財務省キャリアOBであり、金融庁監督局銀行第一課長や主計局次長を務めた人物。金融庁に今回の問題を穏便に収めてもらうように会長に据えるのだろう。
上場企業であるイオンは株主への説明責任があるだけでなく、スーパー事業を展開する会社として全国の利用者に明確な説明と謝罪をする必要がある。それをせずに今回も誤魔化すようなら、イオン本体の命取りにさえなりかねない。
©選択出版
イオン関係者はこう語る。震源はイオングループの金融持ち株会社、イオンフィナンシャルサービス(FS)だ。二〇〇五年に子会社のイオンクレジットサービス(CS)で発生したシステム障害に端を発したトラブルが、十年以上も隠蔽されてきた事実を本誌四月号で報じた。しかしいまだに、イオンからこの件について利用者が納得する謝罪や発表は行われていない。それどころか、この期に及んで関係者の口封じを画策するなど同社の体質は看過できないほどに腐っている。
「過剰請求」だけではない社内不正
手元に一通の内容証明郵便の写しがある。日付は四月四日、差出人はイオンCSの水野雅夫代表取締役社長。水野氏は同社の生え抜き社長だ。これを受けとったのは前回の記事で本誌に内部告発をした平田正弘氏(仮名)。文書にはこう記されている。
「貴殿は、以下の通り、当社の就業規則一―五(一)に基づき、退職後も守秘義務を負うので、これを遵守し、同条で定める機密事項を第三者に開示又は漏えいしてはならない」
イオンCS側は三月三十一日付で平田氏を普通解雇している。この経緯については後述するが、同社は就業規則を盾に、自らの不祥事を外部に漏らすことを止めようとしているのだ。本誌四月号が読者の手元に届いたのは四月一日の金曜日。イオン側は週明けに大慌てで平田氏の口封じに動いたのである。同氏が語る。
「会社側は、私がシステム障害についてこれほど詳細に把握していることを認識していなかったのだろう」
四月十三日、イオンFSは突如として代表取締役の異動についてのリリースを出した。六月二十八日の株主総会に合わせて、山下昭典代表取締役社長が退任するという。これは明らかに、今回の告発記事を受けたものだが、あくまでも「山下氏の経歴に傷をつけぬようにする配慮」(関係者)だという。山下氏は一九七七年に旧ジャスコに入社し、二〇〇四年に同社執行役となった。その後、子会社となったダイエーの常務取締役を務めるなど、一貫してスーパー畑を歩み続けて出世してきた人物。一四年にイオングループの収益の柱となりつつあったイオンFSに送り込まれ、イオン銀行取締役や今回問題が発覚したイオンCSの取締役を兼任した。
イオン本体の重要人物であり、今回の問題で責任を問われる前に「避難」させたのだ。わずか二年で退任することや、イオン本体の執行役副社長を継続して務めることからもそれがわかる。
しかし、イオンには、グループ内で岡田元也代表執行役社長に次ぐ地位にある森美樹代表執行役副社長が残っている。森氏は七三年にやはり旧ジャスコに入社した後、八一年からイオンCSの前身である日本クレジットサービスに送り込まれ、一貫してグループのカード事業に携わってきた。森氏は、〇五年のシステム障害発生時、イオンCSの代表取締役社長を務めていた。つまり最高責任者として隠蔽工作を指示し、今日まで繫がる問題の元凶を作った人物である。
今回、前出の平田氏が告発をしたのは、森氏を筆頭とするイオンCSの体質が変わらないと感じたため。同氏が社内で問題視していたのは四月号で報じた大量過剰請求問題だけではない。
平田氏らイオンCS社内有志は昨年十月、会社上層部にある重大なコンプライアンス違反について調査するよう文書を提出していた。
イオンFSはイオン銀行を発行母体として各地のショッピングモール、センターで大量のクレジットカードを発行している。これをイオン各店舗などで利用してもらい収益を上げているが、その柱はショッピングのリボ払いや、キャッシングによる利息収入である。消費者金融と同様だが、そのキャッシング利用残高は四千億円と大手消費者金融にも匹敵する規模だ。
こうした貸付の中には、利用者の返済が滞った債権が含まれる。このうち長期回収不能債権、つまり不良債権の一部については外部の弁護士事務所に委託している。法的手段を絡ませながら滞納者に返済を求めるが、これ自体は金融会社として普通のことであり瑕疵はない。
不正を告発した側が容疑者扱い
しかし、平田氏らの調査によると、東京都千代田区にあるS法律事務所への偏った委託が確認されたという。実績のある他の法律事務所よりもS法律事務所への委託が突出して多く、しかも強引な債権回収による苦情などが申し立てられていたのだ。調べてみると、S法律事務所への債権回収の委託について社内の決済が通常通り行われていないことが明らかになった。回収困難なものであれ、融資した債権は金融会社にとって最も重要な資産である。杜撰な手続きで外部に出していいものなど一円たりともない。手元の資料にある一五年十一月までの支払い報酬から考えると、少なくとも一年間で二億三千万円分の債権がS弁護士事務所に委託されていた。
S弁護士事務所と社内特定部署との癒着も疑われたため、平田氏は前述した告発を行った。しかしその一カ月後に事態は急転する。昨年十一月六日、平田氏の職場にイオンCSコンプライアンス部の職員二人と、リスク管理グループの職員一人が突如として押しかけてきたのだ。そのときの現場防犯カメラの映像を見ると、社内一事業所への訪問というよりも乱入といったほうがぴったりの光景だった。職場にいた社員と押し問答をし、キャビネットや耐火金庫を無言で次々と開け始めた。まるで「家宅捜索」のようだ。不正を告発した側を容疑者のように扱い、別室で事情聴取まで行っている。平田氏らは当然このことについてイオンFS山下社長らに文書で抗議を申し入れたが、なしの礫だった。実はここでもまだ、平田氏はイオンの良識を信じていたという。
「イオン本体は大丈夫だろうと一縷の望みにかけた」
平田氏は昨年十二月に、グループのトップである岡田元也氏に内部統制の不備を訴える文書を送付したが、これも徒労に終わる。年明けの一月十八日、今度は警備員を伴った八人の職員が平田氏の職場を始業前に占拠。同氏に対して、自宅待機命令書を手渡したのだ。
「会社側は以前から私を追い出したがっていた」
平田氏はこう語る。理由として考えられるのは、前回告発したシステム障害問題や今回の債権委託問題など、会社の暗部を平田氏が知りすぎたから。現に、〇五年のシステム障害とそれに続く、不適切な利息計算処理の全貌を知っている人物は、ほとんど社内には残っていない。
イオンCSでは今年一月以降、なんとか平田氏を懲戒解雇に追い込もうと社内での調査を始めた。他の従業員から強引に平田氏の懲戒事由を聞き出そうとするもので、「査問のようだった」(関係者)という。しかし、平田氏についてそのような事実はひとつも出てこず、イオンCSは無理やりつくった懲戒事由を並べて、弁明するように伝えてきた。並べられた事実は「メールの大量送信による業務妨害」や「部下に対する業務外指示」といった瑣末なもの。三月二十四日に形式的に弁明の機会を設けた後に、三十一日付で平田氏への解雇を行った。名目は懲戒解雇ではなく普通解雇。
財務省OBを会長に据える姑息
その翌日に本誌記事が出たことで、イオン社内は冒頭触れたようにパニックに陥った。
同社はメディアへの抗議が苛烈であることで知られる。しかし、本稿執筆時点でイオン側からの抗議は編集部に届いていない。平田氏を黙らせようと前述した内容証明を送ったようだが、守秘義務よりも公益性が優ることはいまさら説明する必要はないだろう。冒頭のイオン関係者が現在の社内の状況を語る。
「イオン本体から説明を求められており、FS、CSは対応に苦慮している」
いまやグループの稼ぎ頭となったFSの不祥事ということもあり、社内には調査チームが編成された。発端である〇五年のシステム障害について、システム変更の経緯も含めて詳細について報告するようイオン本体と金融庁に求められているという。
しかし〇五年のシステム障害当時の五カ月間については、顧客データはどれが正しい数字なのかさえ検証できない状態にある。現在社内では、これをいかに誤魔化し、誰に責任を取らせるかについて算段が進んでいる。さらに隠蔽を重ねようというから罪深い。
四月二十二日、イオン銀行はこの件に関する顧客向けのお詫びをホームページ上に掲載した。しかし、「過剰請求」を「利息減額漏れ」と言い換え、〇五年のシステム障害については言及しないなど、いまだに姑息な対応に終始している。 イオンFSは退任する山下氏に代わり、イオン銀行代表取締役会長である鈴木正規氏を新設する会長ポストにつける。鈴木氏は財務省キャリアOBであり、金融庁監督局銀行第一課長や主計局次長を務めた人物。金融庁に今回の問題を穏便に収めてもらうように会長に据えるのだろう。
上場企業であるイオンは株主への説明責任があるだけでなく、スーパー事業を展開する会社として全国の利用者に明確な説明と謝罪をする必要がある。それをせずに今回も誤魔化すようなら、イオン本体の命取りにさえなりかねない。
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